高知県ではユリ、グロリオサ、宿根カスミソウ、トルコギキョウなどの切り花、洋ラン、枝物などの花卉(かき)類が多品目にわたり栽培されている。全国の市場に向けて出荷され、その産出額は年間約63億円(令和元年農業産出額および生産農業所得)、全国18位となっている。若い世代に本県産の花に触れてもらい、花を飾る文化を広げようと、高知県とJAグループ高知でつくる「高知県園芸品販売拡大協議会」は、「花育」の一環として「高校生花いけバトル」をサポートしている。同協議会の花の魅力を伝える活動について聞いた。
5分間の即興
日本では季節に応じてさまざまな花が咲き、花にまつわる行事や習慣が暮らしに彩りを添える。「花育」とは幼い頃から花や緑に親しみ、育てる機会を通して優しさや美しさを感じる気持ちを育むことをいう。
2007年に農林水産省が花育活動推進方策を策定した。国は補助金を交付するなど花育活動を推進し、高知県でもフラワーアレンジメント教室や寄せ植え体験、産地学習などさまざまな取り組みが行われている。
毎年2月ごろに開催されている「やさい・くだもの・花フェスタ」の中でも、フラワーアレンジメント教室を開催し、子どもから大人まで大勢の人が参加し「初めての経験だったが楽しかった」と感想を寄せる人も多く見られた。また、20年2月のフェスタでは、初の「中高生花いけバトル」を開催した。
花いけバトルは、会場に用意された花を使って5分間の即興で花を生け、その出来栄えを競う。わずかな時間で花と向き合い、その魅力を見極め、豊かな発想力と技術力で作品を仕上げなくてはならない。フラワーデザイナーや華道家ら大人中心のイベントとして人気が高まるとともに、花育を推進する観点から中高生にも拡大している。
17年からは、花卉生産が盛んな香川県がその“聖地”となるべく「全国高校生花いけバトル」を主催している。大人のイベントとは異なり、2人一組のチームで競い、すべての花が花器の中に収まり保水されていること、花器を丁寧に扱い落とさないことなど、花生けの文化にのっとったルールが設定されている。
20年11月には「第4回全国高校生花いけバトル」の四国大会が高知市のこうち旅広場で開催され、初参加の本県勢をはじめ四国4県から9校22チームが出場。会場にはユリやグロリオサ、トルコギキョウなど本県ならではの花材が豊富に並び、その圧倒的な量に主催者や運営者が驚いたという。
独自の高知大会
その3カ月後の今年2月、高知県園芸品販売拡大協議会は、高知追手前高校を会場に独自の「高校生花いけバトル・高知大会」を開催した。8校20チームが熱戦を繰り広げた。新型コロナウイルス感染予防のため無観客だったが、華道部の生徒に限らずさまざまな生徒が参加し、流儀にとらわれない自由なパフォーマンスを見せた。
ステージには、県内各産地から提供された約20品目2千本以上の花が用意され、生徒たちは花を手に走り回り、大きな流木や長い竹と組み合わせるなどダイナミックな作品を仕上げていった。若い発想力で生み出される作品は、どれも創造力にあふれ、チャレンジに富んでいた。
JA高知県営農販売事業本部果実花き販売課の楠瀬章仁課長(49)=肩書は取材当時=は「1年前はこんなに大胆に生けられなかったし、そもそも参加する高校生がいなかった」と話し、度々行ってきた練習会と高校への出前講座の成果だと強調する。
コロナ禍で花の売り上げが低迷する中、花卉産業振興のための予算を花材の購入や講師の謝礼などに充当し、花いけバトル練習会を4回、高校9校で出前講座を実施した。
「事前に花を見て、どんな構成にするかチーム内で作戦を練ったり、持ち時間5分の配分を考えて動くスピードもアップした」と楠瀬課長。四国大会では、終了後も審査員に質問をしたり、残って練習をする姿が見られたという。
高知大会に参加した佐川高校は、男子4人を含む「地域マネジメント同好会」の生徒10人が健闘。「花に触れるのも初めてだった」という生徒たちも、ステージを飛び回りながら生き生きと花を生け「面白かった」「これからも続けたい」と感想を述べた。
楠瀬課長は「花を身近に感じ、花の楽しさを知った彼らが、これから花とどう付き合っていくかが大事」と言い、「花いけバトルは、花のある暮らしを広げていくためのお祭りのようなもの。どんどん参加してほしい」と話す。
残念ながら無観客での開催だったが、「若い人たちが夢中になって花を生ける姿は、生産者たちの力になる」と、来年は大勢の人に足を運んでもらう大会にしたいと考えている。
生産・消費拡大を
「花いけバトル」を中心とした花育で若い世代に花の魅力を伝える一方で、同協議会は、昨年から高知市役所やオーテピアなど公共施設での花の展示も行ってきた。
花卉産業支援の一つとして生産者や販売店を応援するとともに、広く県民に花の魅力を伝え「花のある暮らしを楽しんでもらいたい」という思いを込めた事業で、「これからも続けてほしい」という声も聞かれるようになったそうだ。
冠婚葬祭やイベントの中止・自粛などコロナ禍で一時は窮地に追い込まれた花卉産業は、現在、少しずつ需要が戻ってきているという。「花を飾ることに魅力を感じた人たちが、日常的に花を買ってくれているなら、こんなにうれしいことはない」と楠瀬課長。県内の花の生産、消費ともに拡大を目指す。
◆「高校生花生けバトル高知大会2021」はユーチューブでご覧になれます。