将来見据えプロジェクト県内産地と連携拡大

県産ニラ「全国首位」維持を

JA高知県香美地区ニラ部会

高知新聞2020年6月28日(日)掲載

所得増大新規就農生産拡大
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生産量日本一を誇る、「高知県産ニラ」。さらに生産力を強化し、2位の栃木県に圧倒的な差をつけた揺るぎない日本一を目指す取り組みが進んでいる。「JA高知県」が県域JAとして県全体の底上げを狙う中、その鍵を握るのは県内屈指の産地・香美地区だ。将来の産地再構築を見据えて活動する「JA高知県香美地区ニラ部会」を取材した。

「断トツ」目指し

高知県のニラ出荷量は1万4300トン(平成30年産野菜生産出荷統計)で、全国出荷量の27%を占めている。以前から抜きつ抜かれつ出荷量を争ってきた栃木県から、10年ほど前に“首位の座”を奪還。それ以来、一度もトップを明け渡したことはない。一年を通じて一定の品質を大量に出荷できる体制が市場での評価と信頼につながり、販売に有利になっている。

しかし、産地間競争が激化する中、生産者の高齢化や後継者不足などの課題が深刻な高知県にとって、「1位の座」を守り続けることは簡単ではない。県内でも有数のニラ産地、香美地区で「断トツ日本一」を目指す生産力強化の取り組みが始まったのは、県域JAの発足前、2015(平成27)年のことである。

その年、「旧JA土佐香美園芸部ニラ部会」では、ニラの生産者を対象に農業経営についてアンケートを実施。その結果、「高齢化」「雇用労力の不足」「施設の不足」などの課題が浮き彫りとなった。

平成27園芸年度に225戸あった農家が10年後の令和8園芸年度には119戸に、作付面積は94・2ヘクタールから62・8ヘクタールに減少し、出荷量も5193トンが3580トンに、市場販売高は31・7億円から17・9億円に縮小するという予測がなされた。

部会は「このままでは日本一からの転落は免れない」と危機感を強め、JAとニラ生産者が一体となり、産地ビジョンに基づく「ニラ産地の再構築計画」がスタートした。

 

 

 

産地ビジョン策定

産地を維持・発展させるためには、就農者数と作付面積を増やすとともに、施設・設備の近代化、農作業の自動化を進めて効率化と省力化を図り、反収(10アール当たり収穫量)を上げて生産量を増やす必要がある。

産地ビジョンでは、10年後(令和8園芸年度)の目標値を農家戸数200戸、作付面積110ヘクタール、出荷量8千トン、市場販売高40億円とし(1)既存農家の経営安定(2)規模拡大志向農家の支援(3)新規就農者および品目転換農家の支援―の三つの生産拡大プロジェクトを策定した。

ニラ部会の部会長、副会長、会計の三役がそれぞれプロジェクトリーダーとなり、国のさまざまな事業を活用しながら、積極的に推進している。

 

 

 

効率化と担い手増を

ニラ栽培で、最も作業負担が大きいのが、外葉を取って整え結束する「そぐり」といわれる調製作業で、作業の約6割を占める。以前は近隣の人手を借りて行っていたが、高齢化により「そぐり手」の確保が困難となってきたことが生産拡大に踏み切れない大きな要因の一つだった。

その負担軽減に向けて、農家へのそぐり機・結束機の導入支援を行うほか、JA高知県香美営農経済センター内に民間企業が建設し運営する「そぐりセンター」を完備した。

同センターにJAが調製作業を委託する形で、農家は刈り取ったニラを持ち込むだけでよい。自己資金でのそぐり機導入が難しい中小規模の農家にとっては、大幅な作業の省力化が実現。そぐり手の労働力に合わせた出荷量の調整が必要だったが、同センターを利用することによって、高単価時に出荷量を増やす高効率の作付けを行うことができる「作型改善」による増産が可能となった。

規模拡大志向農家支援プロジェクトでは、ハウスの新設や環境制御設備の導入支援を行っている。

プロジェクトリーダーである部会長の野島啓三さん(69)は、農林水産省の「産地パワーアップ事業」を活用し、60アールの低コスト・対候性ハウスを増設した。炭酸ガスを施用する環境制御の設備等も導入し、先端的農業を実践。外国人研修生を受け入れ、独自にそぐり・結束・梱包(こんぽう)を行って出荷する。

野島さんは「日本一の産地になるためには、産地が一丸となって周年で出荷することが大事。常に一定の品質で、一定量の商品を供給することが最も重要」と言い、価格が安い時期にも収穫・出荷し続ける「企業経営型」の大規模農家の必要性も説く。

さらに、高齢化や後継者不足で徐々に生産者が減少する実情にも向き合い、新規就農者の受け入れ体制づくりと定着支援、研修ハウスの整備にも力を入れている。「指導農業士」の育成や、研修受け入れ農家の仕組みをつくり、若手生産者の技術研さんや、他産地との交流を行う「グリーンカレッジ」も始動した。

ニラの栽培は比較的容易なことから、他品目を手掛ける高齢者の農家にニラへの転換を勧め支援している。野島さんは「そぐりセンターを活用すれば、高齢者でも農業経験がない“リタイア組”の人でもニラ農家になれる。『生産量日本一の高知県産ニラ』というブランドは強みなのでゆとりのある営農ができる」と話す。

 

ニラ産地再構築に取り組む野島啓三部会長=左=と宮本剛人専門営農指導員(香南市香我美町下分)

 

見え始めた成果

産地ビジョンがスタートしてから、栽培意向調査を毎年実施し、各生産者の栽培状況や収穫量、品質などのデータを共有し、産地の成長・拡大の意識を高めてきた。スタートから4年たった平成31園芸年度は、農家戸数187戸、作付面積85・9ヘクタール、出荷量4281トン、市場販売高27・2億円となっており、大きな減少を食い止め、踏ん張っている。

19年1月のJA高知県発足に伴い、県内のニラ産地も連携し「県域ニラ部会」が誕生。野島さんはその部会長にも就任し、旧JA土佐香美でニラを担当していた営農指導員の宮本剛人さん(43)も専門指導員となって県内の産地を回る。県の農業普及員とも密に連携し、最新の情報を収集しながら、反収アップに向けた指導を行っている。

今年になり、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、業務用ニラの需要が激減し市場価格が低迷した。しかし、家庭用の需要は増加し、高知県産ニラが多くの家庭の食卓を彩った。

県産のニラは、高知県農業技術センターが開発した特許技術のパーシャルシール包装により、鮮度よく店頭に並ぶ強みがある。「飲食店で食べればどれも同じニラだが、今回は手に取ってもらうことで高知県産ニラが認知された。これを商機と捉え、一気に2位を引き離したい。今こそ結束を固め、ここを持ちこたえれば4~5年後に成果が出るはず」と野島さん。

県内の産地ごとに出荷量の目標を立て、高知県全体で市場販売高80億円を目指す。