切磋琢磨し技術磨く産出額全国2位

県産ユリ 消費拡大を

「リリーズファミリー」活動中

高知新聞2020年4月29日(日)掲載

地域活性化所得増大生産拡大
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高知県は、生産量・出荷量、産出額がいずれも全国2位で、全国トップクラスのユリ産地。バブル崩壊後の景気低迷を乗り切るために生産者らが中心となり「高知県リリーズファミリー」を発足させ、産地連携と、生産技術の向上や消費拡大に努めてきた成果といえる。さらなる本県産ユリの認知向上と消費拡大に向けて、活発な取り組みが進んでいる。

生産者つなぐ組織

高知県のユリは、作付面積9630アール、出荷量1580万本(平成30年産花き生産出荷統計)、産出額は30億円(平成30年生産農業所得統計)となっており、いずれも全国2位の産地である。

単価が高いオリエンタル系のユリの生産量が増えたことから、昨年(平成29年生産農業所得統計)は初めて産出額トップの座をつかんだ。長年、生産者同士が切磋琢磨(せっさたくま)し、積み上げてきた高い栽培技術がそれを支えている。

1986年ごろから始まったバブル景気に乗って、国内の花卉(かき)の消費は徐々に伸び始め、90年には大阪市で「国際花と緑の博覧会」が開催されたこともあり、売り上げは右肩上がりとなった。県内の花卉の出荷も順調に伸び、人々の間に「花のある暮らし」が浸透していった。

その後、バブル崩壊とともに2000年をピークに、花の需要が減少。状況悪化を見据え、生産者同士がつながり、協力することが必要だと考えたユリ生産者の森田浩明さん(58)が、組織づくりを呼び掛けた。

「もともとは、ある機関紙にユリ生産者が集まって交流する『ユリサミット』をやりたいと書いたことが発端でした。しかし、販売が右肩下がりになる中、生産者が力を合わせ課題に取り組み、前に進んでいく組織が必要だと思いました」と話す。

県内の各産地を回ってその思いに賛同を得、14年8月、「高知県リリーズファミリー」が発足した。全国に先駆けた「生産者でつくる、生産者のための組織」として評価された。

 

「花は高知県が誇る産物」と語る高知県リリーズファミリーの森田浩明会長(高知市長浜)

 

 

認知度向上へ

現在、高知県リリーズファミリーの会員は、JA高知県への系統出荷の生産団体、個人出荷の事業者、球根会社、流通会社など30事業者の109人。

産地は安芸市、香美市、土佐町、大川村、高知市、土佐市、中土佐町、四万十町、黒潮町と広範囲に分布する。

カサブランカ、シベリア、LAハイブリッド、テッポウユリ、ノーブルリリーなど、さまざまなユリを周年で出荷している。

農業の現場で後継者不足が深刻化する中、高知県リリーズファミリーは情報収集や発信にたける若者たちが活躍し、先輩たちを巻き込んで活発な活動を行っている。

数十年前から、後継者となる若者を住み込みで預かり、技術を教え、互いに磨き合うことや力を合わせることの大切さを説いてきた森田さんの「人育て」が実を結んでいる。

高知県リリーズファミリーの活動は、栽培技術の勉強会、業界の情報共有、広報、販売促進活動など。会員のハウスを訪問して学び合ったり、4月には産出額全国1位の産地・新潟県の関係者を招いた勉強会を行う予定だったが、延期となった。新潟県では花持ちを良くするための前処理の技術開発が進んでいるといい、栽培技術の交流が期待されている。また、高知県産ユリの認知向上にも力を入れている。今年2月に高知県とJAグループ高知が開催した「高知の野菜・くだもの・花フェスタ」では、8種のユリを瓶に入れ、それぞれ香りの違いを比べてもらうコーナーを設けた。中には香りのないユリもあり、「これなら飲食店でも飾れる」という声もあった。

初となる「全国高校生花いけバトル」の高知地区大会も行われ、6校14チームが参加し、個性あふれる作品を披露した。高知県リリーズファミリーも花材を提供し、主催者側がその豊富な種類と量に驚いたという。

 

高知ぢばさんセンターで開いたイベントでは、8種のユリの香りを比較できるコーナーを設けた(2月、高知市布師田)

 

もっと身近に

高知県リリーズファミリーが発足する2年前、日本とオランダが提携し、ユリの普及を目的とする「リリープロモーション・ジャパン」が発足した。オランダ王国大使が任命したリリーアンバサダーが、ユリを楽しむ人を増やす活動を行っている。

高知県内には、森田さんをはじめとするユリ生産者や花卉店経営者など8人のリリーアンバサダーがおり、高知県リリーズファミリーと連携して活動している。

昨年の高知赤十字病院の開院、高知市役所の新庁舎落成式の際には、高知県リリーズファミリーの提供した花々が各施設を飾った。2人のリリーアンバサダーがアレンジを担当したという。森田さんは「花は高知県が誇る産物。これからもどんどん県内外に周知をしていきたい」と話す。

現在、出産して新しくママになった人に、聖母マリアの花であるユリを贈ろうという「ハッピーマザーリリーズギフト」への支援や、新築をした人への花プレゼントを企画し、準備を進めている。「昔は仏壇や玄関、床の間など、家に花を飾ることが当たり前でした。もう一度、花を飾る習慣を定着させたいんです」と森田さん。ユリは水を吸い上げる力が強く、長持ちする。丁寧に水切りすれば1カ月間ほど美しさや香りを楽しむことができるという。

年明けからの新型コロナウイルス感染拡大で、歓送迎会、結婚式などの自粛が要請され、花が彩りを添えるシーンが激減。需要減少に伴って花の価格は大幅に下がり、県内の花卉農家も大打撃を受けている。

「暗く不安な気持ちになる今こそ、花を飾ってみませんか?」

 


高知赤十字病院の開院をリリーズファミリー提供の花々が彩った(2019年4月、高知市秦南町1丁目)