地域名でブランド保護認知度アップ効果期待

県内初「物部ゆず」GI登録

JA高知県香美地区

高知新聞2020年10月25日(日)掲載

地域活性化所得増大新規就農生産拡大
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 農林水産省は、伝統的な生産方法や、気候・風土・土壌など生産地の特性を生かして作られる、地域名が入った産品の名称を知的財産として登録し、保護する「地理的表示(GI)保護制度」を、2015(平成27)年からスタートした。今年8月時点で98産品が登録しており、県内産品では香美市物部町産のブランドユズ「物部ゆず」が今年6月末、初めて登録された。ブランド確立のために取り組む産地を取材した。

模倣品取り締まり

「地理的表示保護制度」とは、ある地域において生産される農産物の特徴が、「地域の特徴」と強く結び付いているときに、他の地域の産物と区別するための「地域名+産品名」を認め、保護する農水省の制度だ。

「〇〇牛」「〇〇りんご」など、地域で育まれた産物の「地域ブランド」を守るためのもので、模倣品の販売など不正使用があった場合は行政が取り締まる。出荷時に「GIマーク」を付けることで、国内はもとより海外でも日本の地域ブランド産品であることを明示することができる。

今年6月、香美市物部町、香北町で青果用として栽培され、JA高知県物部集出荷場で選果・出荷されるユズが、「物部ゆず」として「GI登録」が認められた。

ユズの多くは、搾汁する加工用として生産・出荷されるが、JA高知県香美地区物部柚子生産部会が生産する「物部ゆず」は、果皮に傷や日焼けのない玉の美しさと棚持ちの良さが特徴で、生産量の約69%が「青果」として出荷される。

青果ユズは、皮を器に見立てた「ゆず釜」など目で楽しむ料理に使用され、旅館や料亭からの需要が高い。箱に「○物」の屋号を記した通称「マルブツ」は、古くからその品質に定評があり、市場では高値で取引されてきた。

現在、「物部ゆず」の生産者は約170人、20(令和2)年度の栽培面積は約145ヘクタール、出荷量は約807トンで、特に青果ユズの生産量は日本一を誇る。

「○物」印のブランド「物部ゆず」(青ユズ)

箱の側面には「GIマーク」のシールを貼って出荷する

 

青果ユズで差別化

「物部ゆず」の栽培は、1960(昭和35)年に旧物部村根木屋地区で130本の苗木が植えられたのが始まり。やがて村全体に拡大した。高い山々に囲まれたこの地域では、急斜面で栽培されており、非常に水はけが良いことと日照時間が短いこと、冷涼な気候により皮が引き締まったユズができるのだ。

この好適な環境を生かし、旧物部村ではいち早く「青果ユズ」の栽培・販売に取り組んできた。果汁原料のユズに比べて数倍の高値が付くことから、生産者一丸となって栽培技術を磨き、選果選別を徹底してきた結果、他産地の追随を許さない「青果ユズ」の産地となった。

 

手間が生む高品質

ユズの木には太く大きなとげがあり、樹勢が強く成長も早い。とげが果実を傷つけないようにするため、また収穫をしやすくするため、枝を払う作業が欠かせない。虫や病気によって果皮に影響が出ることもあり剪定(せんてい)、消毒、草刈り、施肥と次々に作業は続く。

玉同士がぶつかっても果皮が変色するため、収穫は一玉一玉そっと丁寧に摘み取ってコンテナへ。振動を抑えるため、ゆっくり慎重に運ばねばならないという手間もある。

上質のものは「平箱」、それよりもやや劣るものを「冬至」、青果として出荷できないものを「加工玉」に分け、出荷場に持ち込む。そこでさらにセンサーを使って大きさや表面の傷や斑点などを確認し、基準を満たしたものだけが青果の「物部ゆず」として出荷される。

出荷は8~9月の「青ユズ」に始まり、9月下旬~10月下旬は若い果実をエチレンガスで熟成させた「カラーリング玉」、11月~翌3月は「黄ユズ」を出荷。1~3月は冷蔵庫で保存しておいた貯蔵ユズも出荷する。長期間安定供給できることも「物部ゆず」の強みだ。

 

知名度向上の一手

「けれど、一般的には『物部ゆず』の知名度はあまり高くない」と、JA高知県香美地区営農指導員の柴田恭佑さん(35)。

15(平成27)年にスタートした「地理的表示保護制度」への登録が、「物部ゆず」の認知度向上につながるのではと考え、16(同28)年、県の担当者と共に当時の部会長、萩野幸一さん(67)に話を持ち掛けた。

この地域でも高齢化が著しく、急斜面での作業が負担となって離農者が増え、産地衰退に向かう危機感を萩野さんも抱えていた。「ブランドユズの産地として知名度を上げ、やりがいのある農業を示して新規就農者の増加につなげよう」と、思いが一致した。

生産者の合意を得るための会合では「急勾配の地形と冷涼な気候、これまで積み上げてきた手入れの技術、予冷庫管理など、今までやってきたことがそのまま認められるはず」と説明し賛同を得た。

登録手続きの作業を経て、今年6月、第96号として無事に登録が完了すると、早速9月から青ユズの箱の側面に「GIマーク」のシールを貼って出荷している。

ユズ畑で作業する萩野幸一さん。品質維持のために手間暇は惜しまない(香美市物部町仙頭)

 

新規就農者確保へ

今後は海外への輸出も視野に入れているが、「まずは国内で一般消費者に知ってもらうことが先決」と柴田さん。「物部ゆず」の名前と品質が全国に知れ渡り、この地域に注目が集まることを期待する。「新しい人が入ってくることが、産地を守ることにつながります。物部を守る、ユズを守ることが一番大事」と力を込めて繰り返す。

香美市も新規就農者への支援制度の充実を図るとともに、鳥獣被害対策への補助などユズ生産者のバックアップに力を入れている。「物部ゆず」のGI登録を“地域の起爆剤”として生かすべく、生産者とJAの取り組みは続く。