土佐あかうしに新格付け良質の赤身肉を再評価

期待高まる「TRB」

JA高知県土長地区

高知新聞2020年8月23日(日)掲載

地域活性化所得増大新規就農生産拡大
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赤身が特徴の高知県独自の和牛「土佐あかうし」。今年4月、黒毛和牛とは異なる「土佐あかうしらしさ」を評価する独自の「TRB格付け」(T=土佐あかうし、R=らしい、B=肉・ビーフ)が誕生した。新たな基準で評価された上質の赤身肉は、ブランド肉「Tosa Rouge Beef(トサ ルージュ ビーフ)」として高い価格で取引される。今後に期待が高まる土佐あかうしについて取材した。

霜降り優位

土佐あかうしは、昭和40~60年代にかけては「おいしい牛」と評価され、関西方面でも人気があり、高値で取引されていた。しかし、1990(平成2)年に現在の牛枝肉取引規格による格付けが運用されるようになってから、状況が変化した。

国産牛の枝肉は、A~Cの「歩留等級」と、5~1の「肉質等級」を組み合わせて評価され、A5ランクを最上級とする。肉の歩留まりが良く、サシ(脂)が多く、色や光沢に優れたいわゆる「霜降り」が高く評価され、高値が付くようになった。

これ以降、A5を目標にした和牛の改良と産地のブランド化が国内で競うように進み、霜降りの入りやすい黒毛和牛はより高値で取引されるようになった。一方、土佐あかうしは頭数が少ないことから改良が追い付かず、やがてその評価は「おいしい牛」から「霜降りの入りにくい牛」となっていった。

そのため、価格は下がり、経営維持のため黒毛和牛に転換する農家が増えた。同時に、高齢化により廃業も進み、土佐あかうしの頭数は和牛全体の0.1%にまで減少した。

この状況から土佐あかうしを守るため、2009(同21)年、県やJA、生産者らでつくる「土佐和牛ブランド推進協議会」が発足。赤身のうまさが際立つ“幻の牛”としてブランド化する取り組みが始まった。

 

ブームの先駆け

高知県畜産振興課の公文喜一チーフ(47)は「赤身肉は塊で調理するヨーロッパの料理でこそ実力を発揮する」と、本場で修業を積んだ都市部のシェフに向けて売り込んだ。

すると、「赤身の中に小ザシが入り、上品で控えめな脂があって、うま味が濃い」と高い評価を得て、赤身肉ブームの先駆けとなった。その後、「希少な赤身肉」として需要が伸び価格も上昇する一方、そのニーズとなるA3、A2の土佐あかうしは、その価値と価格が見合わない状況も生まれてきた。

また、同じA3、A2でも肉の状態や品質にばらつきがあるため、都市部のシェフから「求めていたものと違う」と言われることもあり、良質の赤身肉を選別し、高い価格で販売するための独自の格付けが必要となった。

土佐和牛ブランド推進協議会で検討を重ねた結果、月齢29カ月以上(初年度のため本年は月齢28カ月以上)の出荷された牛のA3、A2ランクの枝肉を、ロース芯の面積や皮下脂肪の薄さなどから再評価し、優れた品質のものをR5、標準以上をR4と格付けして新たにブランド化することとした。

「Tosa Rouge Beef」のロゴマーク

 

「やりがいになる」

今年4月の競りからTRB格付けの運用がスタートしたが、厳格な基準をクリアする枝肉がなかなか出なかった。JA高知県畜産課の国則達生課長(56)は、「『土佐あかうしらしさ』は、血統と飼い方によるものです。もともと個体差があるため、なかなか狙い通りの肉質にならない難しさがあります」と話す。

2カ月後、6月上旬の競りでついに最高ランクのR5にふさわしい枝肉が出て、A5を上回る価格で落札された。

この土佐あかうしを生産したのは、土佐郡土佐町で49年間にわたり牛を飼っている川井高広さん(67)。肥育の仕方は生産者ごとにそれぞれ異なるが、若い頃から餌の配合や与え方で試行錯誤を重ね、「いい牛」を育ててきた第一人者だ。

現在、息子の規共(のりとも)さん(39)と共に営む「川井畜産」では、繁殖から肥育まで一貫経営を行い、土佐あかうしと黒毛和牛、合わせて約300頭を飼育している。

生後12カ月までは高タンパク低カロリーの乾草を主体とした飼料を与え、しっかりと第1胃を発達させて「腹づくり」をし、14カ月ごろから高カロリーの濃厚飼料とわらを与え、仕上げに向けて徐々に濃厚飼料の割合を増やしていく。

余分な脂がつかないように餌の量を制限し、27~29カ月かけてじっくりと育て上げる。「急いで太らそうと思うたら中に脂をかんで(蓄えて)ロース芯が細うなるし、最後に体重を増やそうと思うたら脂肪が厚うなる」と太り過ぎないよう健康に育ててきたことが、R5の評価につながった。

川井さんは土佐あかうしと黒毛和牛を同じ牛舎で同様に育てているが、しっかりとサシが入るという黒毛和牛はA5を、土佐あかうしはA4を目指しているが、個体によってはA3やA2になる。それを再評価するシステムは「収入アップにつながり、やりがいになる」と話す。現在、減少している肥育農家の増加につながればと期待している。

「今後は、品質を標準化するためにも飼い方の統一が必要になってくる」と川井さん。品質が安定すれば市場の評価が上がるとともに、シェフたちの要望にかなう肉が届けられるようになる。

初のR5を生産した川井高広さん、規共さん親子は「(格付けは)やりがいになる」と話す(土佐郡土佐町地蔵寺)

 

2日で完売

川井さんが生産した初のR5は、同町の「Aコープとさ」が競り落とした。店頭に並べたところ、2日で完売したという。川田浩也店長(48)は「地域の皆さんに食べてもらいたいと思い購入した。ニュースを見て地域外から買いに来た方もいた。土佐あかうしらしいあっさりとした味で、赤身のおいしさを味わってもらえたと思う」と話す。

新型コロナの影響で和牛の需要は落ち込み、土佐あかうしも例外ではない。その中で消費者の「おいしかった」「また食べたい」の声が励みになっている。

初めて最高級のR5に認定された土佐あかうしの枝肉(6月、高知市海老ノ丸の県広域食肉センター=JA高知県提供)